ここでは、『プールにて 最短15分でドルフィンキックを習得』を目標とした練習方法を紹介しています。

 

 ドルフィンキックは、その名の通り「イルカの泳ぎ方」です。そこで「イルカはどの様に泳ぐ?」と尋ねると、多くの方は 「全身を大きくくねらせて」と答えます。

 しかし イルカは主な推進力となる「尾ビレの腹方向への振り」においても、人間の上半身に当たる「口先から胸ビレ」にかけては 殆ど動かさずに泳ぎます。

    * イルカは 「ハの字」に開いた胸ビレ」で水を抱え込み、フィンキックの際に生じる上体の縦揺れを最小限に抑えています。

    * この様な思い違いは 「水中を泳ぐイルカの映像」よりも先に 「水面をジャンプするイルカの映像」を観た、或いは「その印象が強く残った」といった『記憶の刷り込み』によるものではないかと‥。

 つまり ダイバーが腕や頭を大きく振り動かした時点で、それは ドルフィンキックとは言えません。

    * その様に泳いでいるダイバーを誹謗している訳ではありません。意図的に行っているのであれば それは遊泳方法のひとつではありますが、「イルカの泳ぎ方ではない」という意味です。

 また 意図せずその様に泳ぐダイバーの大半が、より推進力を得ようと 膝の大きな曲げ伸ばしを加えています。しかし これを行う主な筋肉「膝伸展筋」には フィンが受ける水の抵抗に応じるだけの力はありません。

 それでも 曲げた膝を伸ばそうとすると、ダイバーは無意識の内に 膝伸展筋にかかる負荷の軽減を図ろうと、上体を前傾させて[体をくの字に曲げて]しまいます。

    * 結果 全身を大きくくねらせる事となります。これも『ドルフィンキックもどき』の要因のひとつと考えます。

 これでは 強い推進力が得られないばかりか、体が受ける水の抵抗が増してしまうので、効率の良い推進は望めません。

 あるダイバーは 「水の抵抗に打ち勝つ様に膝伸展筋を鍛えれば‥」と言いますが、身につく筋力には限界があり、またそうなるには相当な時間と労力を要します。だったら手っ取り早く 水の抵抗を減らす泳ぎ方を取り入れた方が良いかと‥。

 他には 『ドルフィンキックは、膝の曲げ伸ばしが命』との意見も。しかしそれは 適格でスムーズな『腰からフィンへの力の伝達』が身に付いている場合に限られます。『腰の動きがフィンに十分伝わらない』という不完全な基礎の上に 『膝の曲げ伸はし』や 『全身のうねり』を積み重ねても、イルカの様な優雅で力強い泳ぎにはならず、それらはただ 体が受ける水の抵抗を増やすだけの 無駄な動きになってしまいます。

 フィンキックは人体の骨格、筋肉のつき方からも分かる様に、フィン表(足の甲方向への蹴り)で主な推進力を得ています。しかし 多くのダイバーは 膝の曲げ伸ばしに固執するあまり、フィン裏(足の裏方向への蹴り)で推進力を得る傾向にあります。

    * 自分が 主にフィンのどちら側(足の甲側、足の裏側)で水を捉えているかは、「浅深度での背面(仰向け姿勢)ドルフィンキック潜行」を行えば 明らかになります。

 

 以上を改善する方法として 『背面(仰向け姿勢での)ドルフィンキックの実践』を提案します。

    * 有効性については、下記【実習B】をご覧下さい。

 この方法は、競泳における『ドルフィンキックの初歩トレーニング』として一般的に行われている内容を応用したものです。内容は大きく2つの段階、【予習(陸上)【実習(水中)に分かれています。

 

 

【予習】(陸上トレーニング)

基本動作を体感します。併せて フォームの矯正も行います。

《ステップ 01》

  ドルフィンキックを行う際の『体の動かし方』を確認・体感します。

 段差を利用して《図A》の様に 右足で立ちます。

    * テーブル等に右手を添えて 上体を安定させます。

    * 必要に応じて左手を壁に添え、肩の前後動を抑えます。

    * 適当な段差が無い場合は、《図B》の様に 片足で立ちます。

 0 肩、腰を前後動させる事無く、左脚を前後に数回振ります。

    * 振り幅は、前後それぞれに20〜30cm位です。

    * 膝は 絶対に曲げないで下さい。

 1 左脚を後方に残した状態から 腰を前方に突き出します。

    * 突き出し幅は、直立姿勢から 前方へ10〜15cm位です。

 2 突き出した腰の動きに呼応して 左脚を前方に振り出します。

    * 振り出し幅は、直立姿勢から前方に20〜30cm位です。

    * 左脚を振り出す際、膝は絶対に曲げないで下さい。 この練習において 「膝の曲げ伸ばし」を行ってしまうと、それに頼るあまり 「腰の前後動」の習得が疎かになってしまいます。

 3 振り出した左脚を前方に残した状態から 腰を後方に引き戻します。

    * 引き戻し幅は、直立姿勢から後方へ10〜15cm位です。

    * 腰を大きく引き過ぎて 体が前傾(くの字)しない様に注意します。

 4 引き戻した腰の動きに呼応して 左脚を後方に振り戻します。

    * 振り戻し幅は、直立姿勢から後方に20〜30cm位です

    * 足首を伸ばした状態で 左脚を振り戻します。

 ☆ 直立姿勢を中心とした前後各10〜15cmの腰の前後動に呼応して、脚を前後各20〜30cm幅に振ります。

    * 頭や肩が前後動しない様に注意して行います。

《ステップ 02》

  上記14までの動きを滑らかに かつ 実際に泳ぐリズムに近づけるべく 繰り返し練習します。

 5 動作が滑らか」になったら、肩の振れを抑えていた左腕を頭上に上げ、その指先を上目使いに見ながら 一連の動作(14)を行います。

    * これは、実際の遊泳姿勢・動作に近い状態を体感するためです。

 6 上記15を 左右を交替して練習します。

 

 

【実習A】(水中トレーニング、上記【予習】を行います)

実際に水の抵抗を受けることで、より実際の遊泳に近い動きを体感します。

 (注意) 【 実習A】では スノーケルは使いません。

《ステップ 01》

  フィンを履かずに入水して 上記【予習】16を、注意点に留意しながら行います。

《ステップ 02》

  フィンを履いて、同じく行います。

    * フィンが受ける水の抵抗は 思いの外大きいので、脚の振り幅を より小さくしても結構です。

    * 足首は、伸ばした状態を維持します。足首をある程度固定(真っ直ぐ伸ばした状態を維持)しておかないと、フィンにかかる水の抵抗(負荷)により 足首を捻るおそれがあります。また 僅かですが、フィン裏でも推進力を得るためです。但し 強く固定し過ぎると 脹脛(ふくらはぎ)が攣りますので、ほどほどに。

《ステップ 03(水深2.5m以上の深深度プール用メニュー)

  《図C》の様にプールサイドに両手を軽く添えて 体を直立させた姿勢から、上記【予習】を踏まえてドルフィンキックを行います。(フィン着用、スノーケル不要)

    * 動作の基本については、上記【予習】を参照して下さい。

    * 体感は、実際のドルフィンキックに より近いものとなります。

    * 慣れてきたら、視線を上目使いに頭上に向けて行います。更に プールサイドに添えた手の力を徐々に抜いて行き、最終的には手を離して「立ち泳ぎ」が出来れば理想的です。

        + この状態から、少しずつ後方に移動しながら「背面ドルフィンキック」(下記参照)に移行しても結構です。

  ドルフィンキックを行う際の体の中心線 人によっては《図C》の様に斜めにズレてしまう(腰、フィンがプールサイドから離れてしまう)場合があります。その際には、腰の前後動を 直立姿勢時前方に集中させて下さい。

     * 腰を前に→脚を前に振って→腰を(直立姿勢の位置に)戻し→脚を(直立姿勢の位置に)戻す ⇒(同じ動作の繰り返し)

     * 体をくの字に曲げない様に、尻を突き出し過ぎない様に 注意して行います。

《ステップ 04》

 スムーズな腰の前後動(ドルフィンキック)ができる様になったら‥

 1 キックボードを抱き締めて体を斜め後方《左図参照》に浮かせます。

 2 この姿勢からドルフィンキックを行いながら 後方に進みます。

    * 動作の詳細については、上記【予習】を参照して下さい。

 3 体を徐々に仰向けに倒して、背面ドルフシンキック(下記【実習B】(ステップ 01)の代わり)として 取り入れても結構です。

    * 視線が進行方向には無いので、プールサイドや他の遊泳者と衝突しない様 十分注意して行って下さい。  

  このメニューを浅深度プール(水深2.5m未満)で行う際には、キックボードを抱き締めて体を仰向けにする または (キックボードを利用して)体を横に倒してドルフィンキックを始めて下さい。

    * 動作の詳細については、上記【予習】を参照して下さい。

    * 当初 フィンは着底していても構いません。

  「膝の曲げ伸ばしを抑える」方法として、腰や脚の振り幅を小さくして 振る回数を増やす「ショートストローク・ハイピッチ」をお試し下さい。この方法は、次の【実習B】にも当て嵌まります。

 

 

【実習B】(水中トレーニング)

 「背面ドルフィンキック」を用いて 基本動作の習得を目指します。

☆ 背面ドルフィンキックの有効性

 1. 頭(上半身)の縦揺れを抑えられます。

    * 背面姿勢で呼吸を維持するためには 顔を水面上に出し続けなければならず、これが頭(上半身)の縦揺れ抑制に効果的です。

 2. 「フィン表で水を捉える」効率のよいフィンキックを習得できます。

    * 冒頭で述べた通り、多くのダイバーがフィン裏で水を捉えて[推進力を得て]います。背面姿勢ならば 腰、脚の動きを視認し易く、フォームの矯正に有効です。

    * 浅深度(水深0.5〜1m)での背面潜行には、肺活量による浮力に打ち勝つために フィン表(足の甲方向)の強い蹴りが不可欠なので、その完成度[推進力]を確認できます。

 

(注意) 「背面ドルフィンキック」を行う際には、スノーケルは使いません。

《ステップ 01》

  キックボードを使って 水面での背面ドルフィンキックを行います。

 1 両腕を使ってキックボードを胸に抱き締め、体を仰向けに水面に浮かせます。

    * キックボードを背面(肩甲骨付近)に密着させても結構です。

 2 数回フィンキックを行い、体をできるだけ水平に保ちます。

     * プールサイドを蹴って勢いをつける方法でも構いません。

     * 肩からフィン先までを真っ直ぐに伸ばす様に心がけて下さい。体がくの字に折れ曲がった姿勢からでは、腰の動きをフィンに伝えることは出来ません。

 3 体が水平になったら 【予習】【実習A】で体感した腰の動きに呼応して脚(フィン)を振り、背面ドルフィンキックを行います。

     * 視線はフィン側におきます。

     * 「膝の曲げ伸ばし」は行わないで下さい。あくまでも腰の動きだけでフィンキックを行うことが重要です。「膝の曲げ伸ばし」に固執すると、基本動作(腰の動き)の習得が難しくなるので 注意して下さい。

     * フィン表の水面方向への蹴り(蹴り上げ)により 水面が盛り上がれば及第です。蹴り上げの際に「膝の曲げ伸ばし」を行ってしまうと、フィンが水面近くまで上がらないので 水面は盛り上がりません。

     * 始めは短い距離(5〜6m程度)を繰り返し行い、感覚がつかめたら距離を延ばします(10〜15m程度)。

     * 視線が進行方向には無いので、プールサイドや他の遊泳者と衝突しない様 十分注意して行って下さい。

  上手くいかない場合は、上記【実習A】を復習します。

(補足)

  「私には背面ドルフィンキックは無理」とお思いの方は、『側面ドルフィンキック』をお試し下さい。右[左]手でキックボードの先端部Aを、左[右]手で同下部Bを持ち、水面に体を横たえて右[左]手からフィン先までを一直線上に伸ばして『側面ドルフィンキック』を行います。

    * 以降のステップもこの様な形から始めます。

《ステップ 02》

 キックボード無しで 水面での背面ドルフィンキックを行います。

 1 両手拇指を絡ませ、両腕を頭上[進行方向]に伸ばします。

     * 競泳では掌と手の甲を重ね合わせて 両腕を進行方向に伸ばしていますが、これでは 上腕がマスクやスノーケルと接触するので、ここでは上記方法を用いて 両掌を水平に維持します。

        + 両掌は、両腕や頭の振れを抑えるスタビライザー(安定板)の役目を果たします。

     * 更に 肩関節を指先(進行)方向に伸ばせは、体(腕、肩)が受ける水の抵抗を減らすことができる上に、両腕の位置を固定し易くなります。また 両掌が受ける水の抵抗により、上半身の振れを抑える要となります。

 2 体を仰向けに水面に浮かせて 通常フィンキックで勢いをつけた後に背面ドルフィンキックを行います。

     * プール壁を蹴って勢いをつけても結構です。

     * 詳細は 上記(ステップ 01)参照。

     * 両掌は、水面に対して水平を保ちます。

     * 視線が進行方向にはないので、プールサイドや他の遊泳者と衝突しない様 十分注意して行って下さい。

 3 遊泳フォームが安定してきたら、視線をフィン側から進行方向に移して背面ドルフィンキックを行います。

     * 徐々に遊泳距離を延ばして行きます。

  遊泳中、両掌は水面下に維持します。両掌が水面上に出てしまう原因としては、尻が沈んでいる[体がくの字に曲がっている]ことが挙げられます。

     * 改善には、上記【実習B】《ステップ 03 を参照して下さい。

《ステップ 03》

 背面ドルフィンキックからの潜降(水中遊泳)を行います。

   背面 ドルフィンキックから視線を進行方向に移した後、体を反らせて潜降を開始します。

     * 始めは浅深度を維持、後 徐々に深深度潜行。

     * 両掌は、水面に対して水平を保ちます。こうすることで両掌は 水の抵抗を受けて安定するので、上体(指先から肩にかけて)の「縦揺れ」が抑えられ、更に腰が動かし易くなります。

     * 浅深度(1m以内)で安定潜行するためには、完成された『蹴り上げ』(上記参照)が不可欠です。ここでは その完成度も確認できます。

《ステップ 04》

 背面ドルフィンキックで潜降し、水中で姿勢を変えます。

   背面 ドルフィンキックの動き、リズムを変える事無く 体を捻って上下反転(水底に対して腹這い遊泳)を行います。

 

以後 スノーケル使用

《ステップ 05》

 スキンダイビングでドルフィンキックを行います。

   ジャックナイフで潜降の後、(水底に対して)腹這い姿勢でドルフシンキックを行います。

《ステップ 06》

 水面でのドルフィンキックを行います

   腹這い姿勢からドルフィンキックを行います。

     * 実はこの姿勢での遊泳が最も難しく、また 体に負担をかけてしまします。このことが 『ドルフィンキックもどき』を生む温床と言えます。背面ドルフィンキックを習得された方ならば、必ずや「水面での腹這いドルフィンキックの難しさ」を実感できる筈です。

 

 

 練習当初の遊泳姿勢は、上下反転(背面から腹這い姿勢に移行)するだけでも崩れる程に脆いものです。個々の適性や進捗状況に応じて 上記内容を反復、順序変更、アレンジ、省略 等しても構いません。

    * 基本動作を体得できたと感じたら、【予習(陸上)から一気に【実習B(水中)(ステップ 05)に移行しても結構です。

    * 基本動作を体感・体得し易いと感じたステップを集中実習しても構いません。

    * 今までの例では、あるステップが上手く出来なくても それに拘らず、次々と消化していくことで 良い結果が得られています。

 

(最後に‥)

 「腰の動かし方」が習得できたら 「上半身の大きなうねり」や「膝の曲げ伸ばし」は本人のお好みで取り入れて結構です。腰の動きに膝の撓りを加えれば 泳力アップに繋がります。

 

 

ご意見・ご質問等ございましたら、下記アドレスまでお送り下さい。

           scuba@piston-diaphragm.com